鹿児島抹茶フラッペ

2010年8月14日

鹿児島中央駅前のスターバックス

僕は今、世界一人気のある大人向けの食堂に来ている。そう、僕は今スターバックスにいる。

題名のごとく、今回の文章は鹿児島県で書かれている。ここまで来るのに、かなり時間がかかった。出発してからは5、6時間しかかからなかったものの、バイク経由で大分出身ですら知らない豊後大野市から鹿児島まで行く勇気を奮い立たせるのは、僕にとってなかなか難しいことであったのだ。天気のせいにしたり、忙しすぎると自分を甘やかしたり、という言い訳生活が数ヶ月も続いた。挙げ句の果てに、生徒の一人に「え?まだ行ってないの?もう、夏だよ」と言われ、たとえ雷であれ今週末こそ、行こうとやっと決心した。今日僕は夏の陽射しと椎名林檎の美しい旋律を浴びながら、桜島を一周した。感激の至りだったと言っても過言ではない。二十分くらい前に、ついにスターバックに到着した。

この日記を書くのは僕にとって、とてつもなく愉快なことである。何しろ、5月に入ってから、自分の最も不得意な分野である、日本語の語彙に注意を集中しようと決意したからだ。そういう訳でおよそ三ヶ月、昼夜iPodタッチを手にし、JAPANESE FLASHやKanji Flipといった暗記ソフトに泪を漏らすまで夢中になっていた。そんな自分は3、4千個の単語を身につけたものの、ここ数ヶ月間ちゃんとした日記を一回も書いていない。今日新たに得た知識を生かし、いつものようにスターバックスについて延々とぼやいていきたいと思っている。宜しくお願いします。

今一番気になっているのは隣に座っている、三十代に見える摂食障害気味の女性のことである。目の前に置いたノートを眺める彼女は、もう数分間、微動だにしないのだ。まばたきさえしない。それに、イヤホンから流れる音楽がリズムよく僕の聴覚を阻み続けるから、彼女が息をしていることも、確認が出来ない。彼女の不思議な行動は僕の思考を最も滑稽な結論へ導いていく。抹茶フラッペ飲んでいる最中のこのお姉さんは、死んでいる。僕はそう思い小さく笑った途端、彼女は忽ち荷物を纏めて立ち去ってしまう。今日鹿児島で起きた彼女の麻痺は結局、真っ赤な西日が桜島の影に沈むごとく、謎に終わる。なんて素敵な去り方なのだろう。

僕がまた外人の雰囲気を漂わせているせいか、彼女に代わるものは来ない。このスターバックスは窓付けのカウンターも含め、約15のテーブルを備えている。その中の一つは、僕とコーヒーの歴史が生半可に描かれた壁が塞いでいる、大きな勉強向けのテーブルである。何分経っても、淋しいことに唯一付き合ってくれるのは、麻痺患者の温もりだ。この鬱陶しい現実を軽く受け流し、斜め前に座っている粋な帽子に潜んだギャルの描写をし始める僕。

とにかく顔が小さい。という表現は、かなり長い期間僕を狼狽させた。英語では決して褒め言葉にならない「顔が小さい」というフレーズを初めて言われた時に、正直言って僕はかなり傷ついていささか自信を失った。そして留学生活が過ぎるにつれて、知り合いが増えれば増えるほど尚更自分の顔に対する劣等感に襲われ、より深い自信喪失に陥った。一時、鏡を見る度に、自分の顔の「足りなさ」に戸惑いを覚えた。斜め前に座っているギャルに「顔がちっちゃ」と言ってみたら、彼女も落ち込むのだろうか。

やっと来た。テーブルの反対側に、大学生らしい二人の女性が優雅に腰をかける。睡眠不足な僕は今、自分が迷って偶々このスターバックスに転がり落ちたという澱んだ顔をしている上に、外人だから、日本語が出来ると思われている筈がない。そう考えてみると僕ですら、自分がここにいることをかなり奇妙に感じ始めた。自己主張が霞みつつある僕は、テーブル越しの出来事を歴史のページに書き残すのだ。

左の細い子は化粧の覆面をし白いシャツを着、ひときわ重なり合ってちっとも似合わないマフラー一枚とネックレス五つで首を隠している。一個のネジが飛び出したように、彼女は延々と信じられないスピードで言葉を吐き続けている。僕はこういう人が幾分苦手だと言わざるを得ない。何故かというと、言葉を大事にしないからだ。まあ楽しんでいるようだから別にいいと思うけど、ネックレスとマフラーを活用し彼女を天井の装飾にした方が面白いかも。彼女の声が降り注ぎ、思わず僕の想像がより冷酷な方面に赴いていく。右の子は黒いスポーツコートを着ていて、ひたすら頭を縦に振り、押し寄せる勢いにさらわれていく。

よし。たった今、スターバックスで起こる僕が最も不思議に思う現象が生じた。そう、二時間ほど前に店内にいた二人の客が、一回出口を通り、そして暫く経ってから、また入ってきたのだ。僕にとって、再び入ってくる客と目を合わすのは興奮してしまうくらい楽しいことである。いかに遥か遠いところに行こうと、これほど恥に満ちた表情はなかなか目につかない。ところがとうとう彼女と目を合わした瞬間、いかにも反対の結果が出たのだ。友達の肩を軽く叩き、彼女は指を宙に上げ、それを大胆に直接僕の方を差す。周りの客や、一人の店員に至るまで、僕の方に視線を向ける。そんな馬鹿気た展開。僕の小さくて物足りない顔にしっかり張られた肌が熱く火照ってくるのをつくづく感じる。何回来ても、僕はスターバックスという謎を解くまい。

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