是非ご覧ください。
ナイス
ふいに一瞬、視界が暗くなり、妙な音が聞こえた。本当に、ぞっとするような、奇妙な音。この家のどこかに、住んでいる者も知らない秘密の古い扉があってそれが突然開いて、また閉まった時のような音。また視界が暗くなる。
村上龍の、「オーディション」から。
新作の推敲、順調に進めています。是非楽しみにしていてください。
楽園
美しい浜(改訂版)
2010年9月24日
三ノ宮駅前のスターバックスにて。
ハチミツがたっぷり入っているカモミールティーが舌に触れると、妙に胸がときめく。そう、僕はスターバックスに来ている。
三ノ宮駅前のスターバックスは広いので、客が大声でしゃべっていてもあまりうるさくない。静かな潮が凸凹した岩を滑らかにするように、優しいジャズに満ちた広い空気が、わいわい騒ぐ客の声といい、ミキサーの金属音の響きといい、全ての音を和やかにしてくれるのである。好きな小説を読み耽るなり、ひたすら苦いコーヒーを飲むなり、時間を気にせずに好きなことをしていい。この平和な雰囲気は客をとてもくつろいだ気分にしてくれる。角の席に座り、ずっとイヤホンでMUSEの騒々しさを楽しんでいる僕には、全く関係のない話であるが。
別府のスターバックスと同様、ここは外国人が客の4、5割を占めている。と言っても、人種は全然違う。別府のスターバックスに来る外国人は、主に部活で身体を鍛えたアジア系の留学生、または韓国から来ている粋な観光客である。この三ノ宮のスターバックスに来る外国人は、主に肥満気味のはげた白人のサラリーマンである。これほど太っている日本人は滅多に目にしないので、日本人はこういう鯨に近い生物を見てどう思うのだろうか。外国人だから仕方がない、という偏見めいた思いを抱くのか。だって消化の仕方が違うもの。遺伝的な特質だから、特に何とも思わない。と、言われたことがある。ちなみに、同じ白人としてこれは恥ずかしい限りである。
店内の反対側に座る美人。橙色のランプの光に映えた彼女の身体を見つめていると、脂肪という概念がそっと頭から去っていく。読書に夢中になっているその彼女を見て、先週別府のスターバックスで出会った美人を想起する。先週と同じように、パソコンから見上げる度に、彼女と目が合うかもしれないと思うと、胸がときめく。先週と違って、今日の美人は年上で、30代半ばかと思われるくらいだ。しかし衰えを感じさせるどころか、あたかも、思春期に始まった身体の変化が、絶えず今日に至るまで、彼女の輪郭をより完全な形に研ぎ澄ましてきたようである。
どちらかといえば、2、3歳上ではなく、だいぶ年が離れて成熟した女性の方が僕を興奮させる。夜の経験も非常に魅力的だが、主に僕を魅了させるのは、仕事をしている筈なのに、彼女が朝10時にスターバックスに来て二時間ほど読書に浸っている、ということである。彼女の私生活が気になって仕方がない。
イヤホンを抜いてみると、頭に打撃を受けたかのように、突如襲ってくる雑音に圧倒される。ジャズはもう流れていないし、客の声もたまらなくうるさい。それに、ふと気づくと何だか空気も悪くなっている。朝の静かな潮はもはや引いてしまったようだ。しかし押し寄せていたジャズの波に、浜には真珠のようなものがたくさん残されている。今は午後1時で、店内は美人だらけだ。これは、スターバックスの特徴の一つである。
一番好きな生徒
Image
懐かしい
祭り
ALT研修会
この日記はフィクションです。気軽に読んでいただけると光栄です。
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2011年11月14日
大分大学にて
僕は今大分県のALT研修会に来ている。ALT研修会というのは、ALT(公立学校で英語を教える外国人)とそのパートナーであるJTE(ジャパニーズ・ティーチャー・オブ・イングリッシュ)が国民のお金を浪費する競争のことだ。今年の競争は大分大学で行われている。今ちょうど十時だ。僕は秋の綺麗な陽射しで満たされているセミナールームで最初の選手が現れるのを待っている。隣に男なのか女なのか区別がつかない、ひどくやせている日本人が座っている。目の周りに黒いメークを塗っているので女の人かもしれない。しかしメークをしているからと言って、必ずしも女の人だという訳ではない。経験で分かる。
最初の選手がステージに立つ。三十代後半と思われる日本人男性だ。では広島大学の松井教授です、と隣に立っている禿げ上がった司会者が言う。どうやら松井教授の競技種目はスピーチらしい。タイトルは、「日本語で英語を教える––効果的かどうか」だ。彼はかなり強いようだ。しかし負ける気がしない。スピーチが始まると僕はパソコンを開き、キーボードを打ちながら、何度もうんうんと頷く。そして時には発表者に目を向けてできるだけ真面目な表情を浮かべる。スピーチについてノートを取っている。ように見えるが、実は読者を笑わせるために日記を書いているのだ。これが僕の浪費の仕方だ。松井教授の言葉がほとんど耳に入らない。隣の男なのか女なのか区別がつかない日本人が既にこっくりこっくり居眠りしている。彼女、いや彼、いや彼女は、意外と強いかもしれない。
松井教授は自分の英語歴について話し始める。
「イギリスに行くと僕はアメリカで英語を勉強したんですねと言われるんですが、アメリカに行くとイギリスで勉強したんですねと言われます。つまり、僕の英語はメイド・イン・ジャパンです」
思わず笑ってしまう。なんだ。なかなか面白いじゃないか、松井教授。
「皆さん、広島のお好み焼きと大阪のお好み焼きの違い、分かりますか?」
なんだろう。大きさ?わからん。
「大阪では自分で作れるのですが、広島では絶対に店の人が作る」
なるほど。
「意味、分かりますか?」
いや、わからん。
「つまり広島では、プロしかお好み焼きを作らない。この研修会では、皆さんに広島のお好み焼き屋さんになって欲しいわけです」
松井教授がそう言うとが周りの人は「なるほど」と真面目そうに頷く。彼は浪費の達人なのだ。
国民が買ってくれた豚骨ラーメンを食べ終えて会場に戻ったら、ワークショップが始まる。ここで参加者は少人数に分かれて浪費の戦略を練る。僕のグループの司会者は、僕と同じ町に住んでいる、髪の毛がほとんどないくせに髭が半端なく濃い、二十代前半のALTだ。名前はジェームス・スミス。僕は彼の授業を一度見たことがあるのだが、実に無駄だった。
「はい、では始めたいと思います。もういいですか皆さん?」
とジェームスは声を上げる。
「今日は皆さんに、僕がいつも授業で使っているゲームを紹介したいと思います。名前は、『マリオカート』です」
彼はそう言ってバッグから透明なファイルを取り出す。ファイルの中にマリオカートの登場人物の絵が入っている。マリオとクッパ が見える。ヨッシーも入っているかどうか気になる。
ジェームスが後ろを向いて黒板にサーキットを書き始める。あちこちで広さが違っていて不愉快だ。
「皆さん、『マリオカート』のルールわかりますか?」
若いALTたちはみんな無言で頷く。年上のJTEたちはそっと黙り込む。
「では早速始めたいと思います。前に来て自分のキャラクターを選んでください」
と彼が言った瞬間、前列に座っている僕はさっと飛び上がってヨッシーを手に取る。
「はい、もういいですか?始めますよ。まず僕が質問をします。それに正しく答えたらサイコロを振ってキャラクターを進めます。いいですか?」
JTEたちの目が泳いでいる。なんでALT研修会で「マリオカート」というゲームをしているのかさっぱりわからない。僕にもさっぱりわからない。ジェームスが再び声を上げる。
「では、質問します。『羅生門』を書いた人の名前を教えてください」
JTEたちの目が光る。みんな答えがわかっている。しかし答えてもいいのかどうかは、わからない。
「芥川龍之介です!」
やっとのことで一番後ろに座っている、いかにも『羅生門』や『地獄変』が好きそうな眼鏡を掛けている男が手を上げて大きな声でそう言った。
「正解です!では前に来てサイコロを振ってください」
「よし」
残念ながら、ファイナルラップで僕は赤甲羅にやられて二位になってしまった。が、こうして2日間も意味不明なスピーチを聞いたり訳の分からないゲームをやったりして、国民のお金を浪費しまくった。そう、マリオカートは負けたのだが、ALT研修会は見事に優勝した。
omggggggggg
Killer
贅沢は味方もっと
欲しがります 負けたって 勝ったって この感度は揺るがないの
貧しさこそが敵
贅沢するにはきっと 財布だけじゃ足りないね
だって麗しいのはざらにないの 洗脳にご注意
ご覧 ほらね わざと逢いたんだ
季節を使い捨て 生きていこう
夜も秋も盗みないの
貴方は私の一生もの
贅沢するにはきっと 妬まれなきゃいけないね
ちょっと馨しいのを睨まないで
欲しがらないなら
今日は一度きり 無駄が無けりゃ意味がない
絶対 美しいのは 測れないの 溢れ出すから
ご覧 険しい日本で逢えたんだ
探し出してくれて ありがとう
空も恋も騙せないの
私は貴方の一生もの




